パノラマ島奇譚  江戸川乱歩

これといった仕事もなく売れない作家の人見広介が、あるとき自分に瓜二つの学友であり
大資産家でもあった菰田源三郎が急死したのを聞きつけ、
ある計略をもってこれになりすまします。

その計略というのは、資産のすべてを使って自らの望みのままに世界を作り、
究極の理想郷を創造することでした。
といっても革命を起こすとかいった類の話ではなく、今で言うテーマパークと水族館と
さらに酒池肉林をごちゃ混ぜにしたようなものをある島に作り上げてしまうのです。

この島の描写が非常に念が入っていて、おどろおどろしい魚介から人魚までが
電光のもとに天然色で水中に踊る海底トンネルをはじめ、
数々の信じがたい奇岩景勝のパノラマ世界が繰り広げられます。

大森林のように見える林や聳(そび)え立つ階段、天女(?)が舞い踊る不思議な空間。
作中でも「行くとみえて帰り、登るとみえて下り、地底がただちに山頂であったり、
広野が気のつかぬ間に細道と変わったり、種々さまざまの異様な設計が施される」とか、
「来てはならないところへ来たような、見てはならないものを見ているような気持ちになる」とか描かれています。

しかし美しい未亡人がこの偽の夫の不気味な計画に疑念を抱き、
そして偽の夫は彼女への思慕と正体が露見する恐怖を感じつつも、ともにこの『パノラマ島」を巡った結果は・・・。
凄絶な最期を迎えて終わります。

江戸川乱歩には子供向けの少年探偵団シリーズもありますが、 大人向けの危ない香りのするシリーズ
「黒蜥蜴」・「蜘蛛男」・「屋根裏の散歩者」といったグループもありました。「パノラマ島奇譚」は後者だったと思います。

エンターブレイン社から漫画版「パノラマ島奇譚」が出されています。
丸尾末広氏の画と脚色により怪しげな魅力満載。
オリジナルと違うのは千代子の死がオフィーリアとなって、より視覚に強く訴えてきます。